往復書歌

文:庄野雄治 題字:河村杏奈

 

マンハッタンブリッジにたたずんで/佐野元春

わたしの半分は佐野元春で出来ている。

生まれて最初に買ったLPレコードは大滝詠一の「A LONG VACATION」だった。
音楽と言えばザ・ベストテンが全てという田舎の小学生が親戚の家で見た永井博のジャケットにノックアウトされ、大滝詠一なんて名前はもちろん、どんな音かも知らずに購入し来る日も来る日も聴いていた時に出た「ナイアガラトライアングルvol.2」で佐野元春と出会ってしまった。
13歳の冬のこと。
収録曲4曲を繰り返し繰り返し聴く毎日。小遣いを貯め買ったファーストとセカンド。
そこには見たこともない都会とそこで暮らす人達の眩しい生活があった。

ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、ジェームス・テイラー、ポール・ウェラー、エルビス・コステロ、ケルアックにサリンジャー、男子の思春期を構成するものの大半は、佐野元春から教わった。
音楽を軸にいろんなことをする。DJ、本の制作、ポエトリーリーディングにレーベル運営。
松田聖子や片岡鶴太郎に楽曲提供。自由に、あくまでクールにかっこよく。
彼をずっと見てきたから今の自分があるんだなあとつくづく思う。
やりたいことを恥ずかしげもなく誰かに揶揄されたってやるんだっていう強靭な意志。

ただただ憧れる。

‘街に暮らしていると毎日少しずつ シニカルになって夜をみつめてる君 イエー’
と44才になった今でもたまに口ずさんでいる自分がいる。
13才の田舎の少年には良く理解出来ていなかった「マンハッタンブリッジにたたずんで」だけどしっかりとわたしの土台となっている。
マンハッタンじゃなく徳島と言う地方都市に住んでいても、生活者の苦悩や喜びは理解出来る。

大人になったんだ。

コーヒーをローストしたり、文を書いたり、音楽をしたり、レーベルを作ったりしている自分がいるっていうのはきっと彼の影響、憧れの上の模倣なんだろう。
そして、そんなことをしている自分がちょっぴり誇らしかったりするんだ。