泳いでいた金魚の空

文と写真:碇本学

昼間の空に浮かんでいる月を見ると
なんだか「スプトーニク」という単語が浮かんできて
月面着陸っていつのことだっけと思う
生まれる前の話 アメリカの星条旗が揺れていた
揺れるんだっけ宇宙空間で どうだっけ
宇宙飛行士になりたいって思ったことがない
地球で訓練を積んでスペースシャトルで飛び立った彼らには
特別なミッション ノットインポッシブル
人類最高峰の技術と未来を切り開いていく大事なお仕事をこなす
やがてミッションが終わって地球に帰還
家族が泣きながら笑顔で迎えてくれる
母なる大地 地球の重力は重い
彼らを待ち受けていた人たちの想い
何もかも重すぎて大切で照れ臭い
彼らはすぐに飛び立ちたい気持ちを抑える
大事なものはそばにあると損なう気がしてしまう
ああ 無重力の中で漂っていたい
すべてのことを振り切って
同時にすべてを引き連れていくような
大事な温かさがどんどん地球に引っ張ってくる
宇宙空間であんなにも軽々しくジャンプしていたはずなのに
大事なものを解き放ちたいなんて
わがままだ
だからわがままな方が
大事にできるような気がしているんじゃないかって
やがて家で飼われることになった実験用の金魚が死んでしまう
庭に埋めたらそのうちバクテリアに分解されて
金魚も何かの養分になって
空気になって 巡り巡って
でも、大気圏の外にはもういけないから
金魚が死んだ日に彼あるいは彼女は
もう一度宇宙に行こうと思う
宇宙空間で泳いでいた金魚のことを脳裏に浮かべながら
遠くの空を見つめている
月が出ていた
もう重力が軽くなっていた