円を描くにも直線で
文:重藤貴志[Signature]
とにかく若い頃は直線的で明確なものが好きだった。
決して硬派や無頼を気取っていたわけではないけれど、
曲線を多用したデザインや曖昧な考え方は嫌いだった。
こうした好みは自分の性格に大きく影響を及ぼしていて、
僕は今でも他者の意見を容れられない困ったところがある。
いわゆる「杓子定規」という言葉がしっくりくる性格なのだ。
「~でなければならない」「~であるべきだ」という言い方は、
背景に広範な知識や経験があれば、大きな説得力を持っている。
でも、それは偉大なる先達の方法論をトレースしているだけで、
まず失敗することのない無難な道を選ぶ弱さの現れでもある。
多くの場合、何かを生み出すには、無謀ともいえる挑戦が必要だ。
そこにはトラブルを笑って乗り越えるタフな心がなければならない。
何かを成し遂げた人たちの心に共通しているのは、
核である強固な信念を包む部分が柔軟性に富んでいることだ。
美しい円の形をしたゴムボールのようなものだと言えばいいだろうか。
しかし、僕の心は一昔前の3Dゲームのポリゴンによく似ている。
ある程度は年を重ねて丸くなってきたが、歪な多角形には違いない。
往々にして硬いものは衝撃に弱いとされている。
確かに僕は予想外の出来事に大きなショックを受ける。
もしかすると、死ぬまでに綺麗な円は描けないかもしれない。
でも、少しずつ直線の数を細かく増やしていくことができれば、
遠目から見たときには、それなりの円に見えるかもしれない。