料理歳時記
冬林檎
「さすがはアップルパイが大好きな女の子、僕がアップルパイの作り方を訊ねてみると、おしゃべりになった。林檎のネグリジェは、砂糖とシナモンなの。林檎のベッドは、パイシートなの。林檎の夢は、オーブンのように熱っぽいの。」
佐々木浩さんの詩集「アップルパイが大好きな女の子」の表題作「アップルパイが大好きな女の子」が大好きです。
林檎の季語は秋ですが、冬の季語に、冬林檎という言葉があります。秋に収穫されて冬に食べられる林檎のことだそうです。
例えば、長野のサンふじあたりの品種は、12月になってから収穫されるものもあるので、実際林檎は秋より冬のイメージがつよかったりします。長野出身の僕が、林檎と言われて思い浮かべていたものは、実は冬林檎だった、ということなのかもしれません。
アップルパイの仲間で、タルトタタンというフランス菓子があります。タタン姉妹の失敗から生まれたと言われている林檎のお菓子で、生地を敷くのを忘れて焼いてしまっただとか、オーブンの中でひっくり返してしまっただとか、失敗の仕方のバリエーションが諸説あるお菓子です。諸説あるものがけっこう好きなのですが、そのなかでもかなり好きなタイプの諸説です、タルトタタン。
タルトタタンには紅玉、というのが、わりと定石のようになっているのですが、僕はこの冬林檎というものが、タタンに向いてるんじゃないかな、と思っています。味が、ということではなく、雰囲気が、しっくりくる。バターと砂糖でキャラメリゼした冬林檎をオーブンに入れて3時間。ぎゅっとした飴色の失敗を目指して作るお菓子。
アップルパイが大好きな女の子が、実家から届いたダンボールいっぱいの林檎をもてあまして年明け、意を決してアップルパイを作ってみる。失敗する。失敗したけど、これはこれでけっこういけると思う。ていうか、こっちのほうが好きかもしれない。ねえ、どう思う?