真鍮の放つ輝き
文:重藤貴志[Signature]
ここ数年、気になっているものの一つに、真鍮という金属がある。
身近に使われている金属の一つであり、銅と亜鉛からなる合金のことだ。
日本語の別名は黄銅で、わかりやすい例としては、五円硬貨が挙げられる。
丁寧に時間をかけて磨き上げると、金に似た美しい輝きを帯びるため、
欧米では皮肉を込めて“poorman’s gold”と呼ばれるケースもあったらしい。
貴金属ではないため、どうしても金や銀よりも下に見られがちだが、
経年変化で鈍い光を放つようになった真鍮の存在感は本当に素晴らしい。
特に革製品との相性は最高で、まさに時間がつくりあげた実用の美だと思う。
面白いのは「この真鍮こそが、オリハルコンではないか」という一説だ。
日本では漫画やテレビゲームなどで広く知られるようになったこの金属は、
古代ギリシア・ローマ時代の文献にしばしば登場する正体不明の合金である。
希少性が謳われる伝説の合金、オリハルコンが真鍮だったとしたら…。
財布の中にある五円硬貨も、今までとは異なる輝きに見えるかもしれない。