焚き火の持つ効能

文:重藤貴志[Signature]

少なくとも約50万年前頃から人類は火を焚いていたといわれている。
しかし、機械化が進むうち、私たちは急速に焚き火から遠ざかった。

スイッチ一つで簡単に点火できるクッキングヒーターは便利だが、
火に対する距離感は曖昧になり、適切に制御できる人は減少した。

自分で焚き火をしてみればわかるが、火のコントロールは本当に難しい。
マッチやライターを使わなければ、そもそも火を点けることができない。
現代版の火打ち石(ファイアスターター)でさえ、初心者は苦労するだろう。

何とか火が点いたとしても、小さな枯れ枝などを用意しておかなければ、
せっかく生み出すことができた火種も、あっという間に消えてしまう。
下手な薪の組み方をすれば、空気が遮断されてしまい、やはり火は消える。
調子に乗って薪をくべると、驚くほど火勢は強くなり、手がつけられなくなる。

それでも、焚き火は素晴らしい。
立ち上る炎の色、煙の匂い、薪の爆ぜる音。
いつしか迷いや悩みは消え去り、火を見つめるだけで時間が過ぎていく。

約50万年にわたって、どれだけの人が焚き火に心を奪われてきたのだろう。
野外で火を焚くことの楽しさと喜びは、もっと見直されていいと思う。