盗まれたものの行方
文:重藤貴志[Signature]
さっきまで机の上にあったボールペンが消えた。
ほんの数秒前にメモを取り、そこに置いたのに。
集中力に欠けている上、注意力が散漫なせいか、
昔からいろいろなものをなくしては探し回ってきた。
最近では加齢による物忘れも加わってきた気がする。
しかし、このボールペンの消失は只事ではない。
いくら何でも、見えなくなるまでの時間が早すぎる。
狼狽しながら周囲を見渡し、山積みの資料の束を動かす。
床に這いつくばってゴミ箱をどかしても、ボールペンはない。
「もしかして、妖精の仕業では…」という思いが頭をよぎる。
意地の悪い微笑みを浮かべながら、魔法で盗んでいったのだろう。
我ながらひどい発想だが、そうでも考えなければ説明がつかない。
たまに紛失したものが妙なところから出てくることがある。
あれも同じ妖精の悪戯だとすれば、辻褄が合うではないか。
しばらく玩具にして遊び、飽きたから返してくれたに違いない。
妖精が持っていったのだから仕方がない。
大きな溜め息を吐き、潔く探すのを止めた。
そのうち、ボールペンも出てくるはずだ。
だが、盗まれたものは、どこへ運ばれていったのだろう?
かすかに甲高い笑い声が聴こえたような気がした。